2017年01月11日
最先端技術
研究員
木下 紗江
2017年の幕が明けた。この「2017」は306番目の素数である。素数とは、「1」とその数自身のほかでは割り切れない正(=プラス)の整数」を指す。例えば、「3」は「1」と「3」でしか割り切れないから素数。しかし、「4」は「1」と「4」のほかに「2」で割り切れるので、素数ではない。偶数で素数になるのは「2」だけである。ちなみに「2017」の一つ前の素数は「2011」だから、今年は6年ぶりに素数の年。また、次回の素数は10年後の「2027」年になる。今回は、2000年以上前から、古今東西の数学者を魅了してきた素数の秘密について、Q&A形式で解説する。
―「1」は素数ではないの?
「1」は素数には含めないというルールがある。また、「-1」「-2」のような負(=マイナス)の整数や「0」も素数ではない。
―素数はいつ発見されたのか?
素数の研究は2000年以上も前にさかのぼる。記録に残っている限りでは、紀元前3世紀頃に古代ギリシアの大数学者ユークリッドが編纂(へんさん)したとされる数学書『原論』の中で、早くも「素数が無限に存在する」ことが証明されている。その一方で21世紀になっても、素数が現れる規則性は解明されていない。このため、世界中の数学者がその規則性、あるいは未発見の素数を発見しようと懸命に研究を続けている。
―素数はどうやって見つけるのか?
素数を見つける方法は幾つかあり、最も単純なのは「エラトステネスのふるい」と呼ばれるものだ。エラトステネスは地球の大きさを初めて測定した古代ギリシアの数学者としても有名である。例えば20までの素数を見つける場合、彼は①まず「1」を除いた2~20の整数を順番に並べる②「2」は残したまま、2の倍数(4、6、8、10、12、14、16、18、20)を取り除く③残った整数から「3」は残したまま、3の倍数(9、12、15)を取り除く④次に「5」は残したまま、5の倍数、その次に「7」を残したまま、7の倍数を同様に取り除き、残ったものが素数になる。この場合、2、3、5、7、11、13、17、19の計8個が素数である。
―ほかにはどんな素数の見つけ方があるのか?
17世紀フランスの神学者マラン・メルセンヌが大変面白い発見をしている。2n-1(メルセンヌ数)という式のnの部分に2から順に素数を入れていくと、時間はかかるかもしれないが、いずれは新たな素数が見つかるという理論である。例えば、nに2を入れると、22-1=3となり、n=「2」も「3」も素数。
ただし注意すべき点は、nが素数であっても2n-1が素数とは限らないことである。例えば、211-1=2047においては、n=「11」は素数だけれども、「2047」は素数ではない(「2047」は、「1」と「2047」のほかに、「23」と「89」で割り切れるため)。
―今でもメルセンヌ数は活用されているのか?
数学者のロマンともいうべき「最大の素数」を効率良く発見するために、今でもメルセンヌ数は欠かせない存在である。
2016年1月、米セントラルミズーリ大のカーティス・クーパー教授は約800台のコンピューターに計算させ、史上最大となる2233万8618桁の素数=274207281-1を発見した。これはメルセンヌ素数では49番目の大きさになる。それまでは、2013年に発見された1742万5170桁の素数(48番目のメルセンヌ素数)=257885161-1が最大だった。
メルセンヌ素数を見つける解析ソフトを無償提供しているプロジェクト「GIMPS(Great Internet Mersenne Prime Search)」は、史上最大のメルセンヌ素数を発見した研究者に賞金3000ドルを進呈。もし、それが一億桁以上であれば、賞金は5万ドルに引き上げられるという。
―素数は世の中の役に立つのか?
素数は数列の中で不規則に登場するため、その予測の難しさがインターネット上でセキュリティを保障する「暗号」に向いている。このため、暗号通貨として注目を集めている「ビットコイン」の取引システムでも、素数が活躍している。
木下 紗江